シ−サ−編集の名言集No.3

 これから紹介する本の一節は私が20代の時、東京の(株)レ−モンド設計事務所(建築家アントニン・レ−モンドがはじめた設計事務所)に勤めていたとき、所長から所員のみんなにと手渡されたある本の一節のコピ−です。たった一枚でしたが、当時私はそれを読んで大変感動し、沖縄まで大切にもちかえり、時々、読み返しています。建築を志す若者に勇気を与える一節です。ではご紹介します。
             第一章  基礎教育

 (建築)。−絵画、彫刻、音楽と併称せられ、人の世界に創造せられ、人の世界に創造せられる諸芸術の中に、厳として一部門を画して存立する最高芸術の一つ、−−−(L’Achitecture)
その感覚的境域として、彫刻的と云はんには余りにも音楽的なるこの造形芸術は、正に理智より構成せらる感情の作曲であり、実用より美化せらる生活の楽譜である。
 さればこそ、凡そ建築は一国文化の清華といはれ、又結晶とよばれて、後世これが残したる足跡によって、時代それぞれの文化の批判尺度とせられているのである。
 青年諸君、諸君はその職掌として、建築家として起たんと決心した。しかし建築といふ芸術は、他の何れの芸術よりも、最もむつかしい創造芸術である。然も今日、吾等の建築界は暗澹として、建築家自らの足元さへ真っ暗である。この恥づべき、危ぶまれるべき吾等の時代に於いて、建築家として志す事は一つの大いなる勇気である。勇気−否、寧ろ諸君の大多数は、恐らくは建築芸術の男性美に憧憬して、無意識に惹きつけられ来つた事と想像する。この憧憬こそ、即ち諸君が建築に対する恋である。熱烈なる恋は勇気を与える。勇気は万難を甘受し、これを克服する。吾等の社会が建築家に酬ゆべき何物にも乏しいこの時代に当たって、諸君が将来建築家として世に起つその使命は、誠に重大なるものがある。即ち諸君は真の意味に於ける建築家となって、(建築とは如何なるものであるか)、又(建築家とは如何なる人格者であるべきか)に対する実例と実証とを身を以って示し、社会を指導し、我が国建築界の将来を浄化して、之を向上発達せしめなければならぬと言ふ、その責務を有しているのである。
 若き芸術の熱烈者よ。純なる建築の憧憬者よ。諸君の歩むべき途は遥かである。この出発の時に当たって、不幸にも諸君の中に之が勇気に欠けている者があったならば、自分は只今他の職掌を改めて選択せんことを、切に勧告して止まないのである。何故かなら、今日は吾等が互いにこれから建築といふ、いとも至難にして恵まれざる芸術の研究にいそしまんとする、その第一日であるからである。

 私は、この文章を今まで何回読んだかしれません。文章をできるだけ忠実に書き写しています。たぶん、所長が大学時代(横浜国立大学)、講義の担当教授が学生のためにしたためた文章だと思います。私はこの文章を読むたびに勇気が湧いてくるのです。いつの時代にも通用するすばらしい文章だと思います。